トレンドカラー(流行色)って自然発生的かと思っていませんでしたか?世界的なトレンドカラーを決めるのは「インターカラー」という国際機関とパントンという企業が独自の色選定で影響力を持っています。今回はパントンのカラー・オブ・ザ・イヤーことをみていきましょう。
「パントン・カラー・オブ・ザ・イヤー(Pantone Color of the Year)」は、アメリカのパントン社が毎年12月に発表する、その年を象徴する色です。この取り組みは1999年に始まり、以来、デザイン、ファッション、インテリア、広告など多岐にわたる業界に影響を与えています。パントン・カラー・オブ・ザ・イヤーは、パントン・カラー・インスティテュートの専門家チームが、世界中の色彩に関するトレンドや文化的な動向を分析し、慎重に選定します。このプロセスには、ファッションショー、映画、アート、旅行先、社会経済的な状況など、多岐にわたる要素が考慮されます。
2025年PANTONEカラーオブザイヤー受賞色「モカムース」

「モカムース」は、味覚や触覚に訴える豊かさと温もり、思慮深い贅沢、調和とシンプルさ、そして多用途性を兼ね備えた色として、2025年の社会やライフスタイルのムードを象徴するカラーとして選出されました。
感覚に訴える温かみと豊かさ
- モカムースは、カカオやチョコレート、コーヒーといった味覚的な心地よさや美味しさを連想させる、リッチで温もりのあるブラウンです。
- この色は「感覚に訴え、癒しをもたらす温かみに満ちたメロウなブラウン」と紹介されており、私たちが日常で求める心地良さや満足感、安心感を象徴しています。
思慮深い贅沢と控えめなエレガンス
- パントン社は「思慮深い贅沢(Thoughtful Indulgence)」というテーマを掲げ、モカムースは繊細な優雅さと、気取らないクラシックな雰囲気を持つ色として評価しています.
- 控えめで落ち着いたブラウンのイメージから、野心的で贅沢な印象まで、幅広い「ブラウン」のイメージを拡張する色とされています。

調和とシンプルさへの回帰
- モカムースは「調和のとれた快適さ(Harmonious Comfort)」を体現し、現代社会で求められるバランスや安らぎ、日常の小さな喜びを反映しています。
- パントン社カラーインスティテュートのエグゼクティブディレクター、リアトリス・アイズマン氏は「日常の喜びを求める私たちの願望を反映した色」と説明しています。

多様なデザインへの適応性
- モカムースは単独でも、他の色と組み合わせても使いやすいニュートラルなブラウンであり、ファッション、インテリア、グラフィックデザインなど多様な分野で活用しやすい点も評価されています。
- 2025年春夏のファッションウィークでも多くのブランドがこの色を取り入れており、トレンド性と実用性の両面で注目されています。
2000年〜2025年までの受賞色

「プラダを着た悪魔」“その色はなんで流行ったか知ってる?”の名シーン
映画『プラダを着た悪魔』には、ファッション業界の流行がどのように一般の人々にまで波及するかを象徴的に語るシーンがあります。このシーンでは、編集長ミランダ(メリル・ストリープ)が、アシスタントのアンディ(アン・ハサウェイ)に対して、彼女が着ている青いセーターの“その色はなんで流行ったか知ってる?”と問いかけます。アンディはファッションに無関心な態度を見せますが、ミランダはそのセーターの色(セルリアンブルー)がどのようにして流行となったかを説明します。

実際には、映画が制作される6年前、PANTONEがセルリアンブルーを「2000年カラー・オブ・ザ・イヤー」に選んだことも、現実のトレンド形成に影響を与えています。
- 「あなたが着ているその青いセーターは、セルリアンブルー。オスカー・デ・ラ・レンタがコレクションで使い始め、イヴ・サン・ローランも採用し、やがて多くのデザイナーが追随し、最終的にあなたのような人のセールワゴンに並ぶのよ」
このやりとりは、ファッションの流行が偶然ではなく、専門家や業界の仕組みによって生み出され、一般消費者にまで波及していくことを示しています。
この名シーンは、ファッション業界の流行の仕組みや、日常の中にある「色」一つにも大きな背景があることを印象づけています。
パントン・カラー・オブ・ザ・イヤーは、単なる色の発表ではなく、時代の精神や社会的なムードを色彩で表現する試みです。この取り組みは、デザイン業界や企業にとってはトレンドの指針となり、消費者にとってはその年の気分や価値観を感じ取る手がかりとなります。色彩が持つ力を通じて、私たちはより深く時代を理解し、共感を育むことができるのです。

色彩が人々やトレンドに与える影響の大きさを改めて感じました。